『虹にまつわるエト・ケテラ』 

7月になりました。今年も折り返し地点を過ぎ、残すところ半年です。梅雨明けはもう少し先のようで、すっきりしない天候が続いています。そんな梅雨の時期ですが、雨上がりに虹を見るチャンスも多いときです。聖書の中で虹は、ノアの洪水物語で最初に登場します。

人を創造したことを後悔した神さまは、この洪水物語で、地上に雨を降らせ、洪水をもたらします。すべての形あるものを洗い流すほどの激しい雨を「雨濯」と言うそうですが、ノアの洪水の時はそんな雨が降り続けたのでしょうか。ノアの箱舟に入った以外の生き物は、洪水によって大地からぬぐい去られます。水が地上からひいた後、神さまはノアと契約を結び、幾ら人間が悪い思いを抱く存在であっても、二度と滅ぼすことはないと言われました。その平和のしるしとして神さまが雲の中に置かれたのが虹なのです。虹はヘブライ語で、ケシェトですが、弓という意味もあります。神さまは、人間を滅ぼすために使った弓を、もう二度と使わないと、雲の中に置かれたのです。空を染める美しい虹に、この神さまの決意が表されているのです。

わたしたちは、一般的に虹は七色だと思っていますが、これは日本を始め、アジア諸国での概念です。厳密には虹はスペクトル色ですから、含まれる色は七色に限らず無限です。蛇足ですが、「虹」という漢字が「虫」偏なのは、昔、中国では虹を見て蛇を連想したからだと言われています。中国では蛇や龍は縁起の良い動物です。

性的少数者・セクシュアルマイノリティも、6色の虹色を自分たちの象徴として用います。それは様々な色が共存する虹は、同性愛者、異性愛者、トランス・ジェンダーに、シス・ジェンダー等、様々なセクシュアリティの人たちが、この地球上で共存していること、「性の多様性」を表し、それら多様な人々の調和を意味しているからです。

また1960年代にイタリアで考案された平和の旗(la bandiera della pace)は、7色の虹の旗で、2003年のイラク戦争開始に前後して世界各地で使われ始め、戦争に反対し、平和を求める意思を表しています。

そのように誰もが、自分らしい色を表現し、自分らしく生きて行くことを互いに認め合うことが出来るのなら、それはいろどりに富んだ素晴らしい、平和な世界が実現するという希望が、虹色には込められているのです。神さまが「良い」と認める世界は、この虹に示される平和な世界です。あらゆるいのちが共存する世界であり、あらゆる人が共存できる社会なのです。

1939年のミュージカル映画「オズの魔法使い」の中で、主人公のドロシー役のジュディ・ガーランドが歌った「虹の彼方に」という歌があります。2001年に全米レコード協会が発表した「20世紀の歌」365曲のうち、堂々の1位を獲得した名曲中の名曲ですが、性的少数者のテーマソング的曲としても、愛され続けています。それは、性的少数者に対して理解が深く、自身もバイセクシュアルであったジュディが、同性愛者のアイコンとして多くの性的少数者から愛されているからなのですが、この「虹の彼方に」の歌詞が、未来への希望を歌っているからでもあります。

今は、多様性を受け入れることが出来ずに、共存できずにいるわたしたちが、いつか互いに認め合うことのできる、平和な虹の向こう側の世界にたどり着くことが出来るように、祈り合って歩んで行きたいと、神さまの約束の虹を仰ぎ見ながら思いました。

司祭 アンブロージア 後藤香織
(名古屋聖ヨハネ教会牧師)