『11月に思うこと』

北信濃にある飯山は、今、晩秋を迎えようとしています。春霞にけむる千曲川のほとり一帯に咲く黄色い花の大群落、高野辰之作詞、文部省唱歌、「おぼろ月夜」のモチーフとなった鮮やかな菜の花畑。蝉の声と共に深い緑につつまれた夏。そして今、突き抜けるような青空に、鮮やかな赤や黄色に染まりゆく秋を迎えようとしています。
上杉謙信が、川中島合戦の拠点として築城し、12年間の合戦の間にも、武田信玄の攻めに落城しなかった「堅固な城」。名利を求めず、ひたすら修業に打ち込み、多くの民衆の信望を得た名僧が修業した20余の古刹がたたずむ雪国の城下町、寺の町は、知識を蓄えた長い歴史に裏付けされた静けさを与えてくれます。

さて、11月は、教会暦一年の最後の月であり、降臨節が迫り来る月であり、そして、また、逝去者記念の月でもあります。

「(永遠の)命を得るために、(中略)神から召され、多くの証人の前で立派に信仰を表明し」(テモテへの手紙一6・12b)神に望みを置き、一生懸命に生き抜き、信仰の戦いを立派に戦い抜いた人々の魂を大切に考え、記念・・し、主にある交わりを共にし、祈ります。この記念・・(アナムネーシス)とは、単なる過去の追憶ではなく、より積極的な意味であり、時間と空間を越えて再び現実のものとなり、死者と生者が、主イエス・キリストにある交わりにあずかることであり、やがて私達も、主と一つになる霊的な交わりに入れられることであり、ここに、私達の勇気と希望が与えられます。全ての亡くなられた方々の魂の平安を祈りたいと思います。

2004年も、まもなく過ぎ去ろうとしています。世界各国で続く、戦火、テロ、暴力の連鎖、長引く経済の低迷、漠然とした閉塞感。暗い時代が続いているように思います。脱亜入欧、富国強兵、明治以降の日本は、西欧文明を追い求めてきました。それは、積極性、能動性、生産性、効率性といった力の論理を重視、絶対化した弱肉強食といった力と強さの思想です。戦後、特に米国の文化が日本に影響を与えたように思います。アメリカンドリームに代表されるアメリカ的文化は、明るさ、健康に価値を置き、人間の弱さや悲しみのような影の部分をマイナスの価値として切り捨ててきたように思います。本当は、弱さも悲しみも大切であるのに、生産や効率の役にたたないからと言って切り捨ててきました。その結果、一面的にしか社会、世界をとらえられなくなり、相手の屈折や影の部分を想像できず、自分達の価値観で押し切ろうとする社会です。それがもたらしたのは、生命、生活の基礎となる生態系の破壊であり、環境汚染です。人間にとって、重要なことは、自分とは違う価値観をもつ他者の存在であり、異質な他者によって初めて見えなかった自分の姿が見えてくるように思います。他者を見失った同質な集団や均質な社会は危ういように思います。

さて、今月28日からは、教会暦の新しい年が始まります。柴の色が用いられるこの期節、イエス様の誕生を迎える準備の期節としての降臨節を慎み深く過ごし、意義深いクリスマスを迎える心の準備の時として過ごしたいものです。

司祭 テモテ 島田 公博
(飯山復活教会勤務)