『こいぬのうんち』

「こいぬのうんち」 という絵本のお話を紹介します。 文はクォン・ジョンセン、 絵はチョン・スンガクで二人は韓国、 日本語訳は在日朝鮮人二世のピョン・キジャです。

こいぬが石垣のすみっこにうんちをしました。
すずめが一羽飛んで来て、 うんちをちょんちょんとつついて言いました。
「うんち、 うんち、 アイゴーきったねえ」
「なんだって! ぼくはうんちだって? ぼくはきたないんだって?」
こいぬのうんちは腹立たしく悲しくなって泣き出しました。
近くに転がっていた土くれが、 話しかけてきました。
「もともとおいらは、 向こうの山の段々畑で野菜を育ててたのさ」
「去年の夏は、 雨がちっとも降らなくて、 ひどい日照り続きで、 おいら、 その時、 とうがらしの赤ん坊を枯らしてしまったんだよ」
「そのばちが当たったんだ。 きのう、 ここでおいらだけ荷車からこぼれ落ちたのさ。
ああ、 おいら、 もう畑と仲間のところには帰れない」
土くれは悲しそうにつぶやきました。
その時、 牛に引かせた荷車がガタゴトやって来て、
「ありゃりゃ!これは、 うちの畑の土のようじゃが?」 と荷車のおじさんが土くれをいとおしそうに両手で拾い上げて、 荷車に乗せて行ってしまいました。
「ぼくはきたないうんち。 何の役にも立たないんだ。 ぼくはこれからどうすればいいんだろう?」
春になって、 こいぬのうんちの前に、 緑色の芽が、 ぽつんと顔を出しました。
「きみ、 だあれ?」
「わたしは、 きれいな花を咲かせるたんぽぽよ」
「どうしてきれいな花を咲かせられるの?」
「それは雨と太陽の光のおかげよ」
「それとね、 もう一つ絶対必要なものがあるの」
たんぽぽはそう言って、 こいぬのうんちを見つめました。
「それはね、 うんちくんがこやしになってくれることなの」
「ぼくがこやしになるって?」
「うんちくんがぜーんぶとけて、 わたしの力になってくれることなの。
そうしたら、 わたしはお星さまのようにきれいな花を咲かせることができるの」
「えっ、 ほんとにそうなの?」
こいぬのうんちはうれしくて、 たんぽぽの芽を両手でぎゅっと抱きしめました。
雨が降り、 こいぬのうんちは、 雨に打たれてどろどろにとけて、 土の中に沁み込み、 たんぽぽの根っこから茎を登り、 つぼみをつけました。
そして、 暖かい春のある日、 きれいなたんぽぽの花が一つ、 咲きました。
やさしく微笑むたんぽぽの花には、 こいぬのうんちの愛がいっぱい詰まっていました。

これはあらすじです。 実際の絵本は文も絵も訳もすばらしいものです。
老人である私には、 こいぬのうんちが小さなたんぽぽのこやしになる、 というこのお話は、 老人の残された生と死にも、 「主の栄光を現わす」 務めが恵みとして、 なお備えられていることを教えてくれていると思えるのです。

執事 ヨハネ 大和田 康司
(名古屋聖マルコ教会牧師補)