「やさしいまなざし」

 『日本経済新聞』の文化面に「交遊抄」というコラムがあります。私は著名人でも何でもないのですが、お声をかけていただき、先日9月1日に、掲載されました。タイトルは「やさしいまなざし」。森美術館館長の片岡真実さんとのつながりを紹介しましたが、片岡真実さんのお父さんは、私たち中部教区の先達である菊田謙司祭です。以下に、「交遊抄」で書かせていただいた記事を紹介させていただきます。
 約250万の発行部数を誇る日経新聞という全国紙に、日本聖公会中部教区、そしてこの9月にちょうど逝去8周年を迎えた野村潔司祭の名も登場したことは、誠に嬉しいことでもありました。

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 森美術館館長の片岡真実さんは飲み友だちであり、同志でもある。その出会いは1980年代後半、私が京都大学工学部を卒業し、英国国教会の流れをくむ日本聖公会中部教区の名古屋学生センター主事として赴任したころに遡る。
 片岡さんの父は同教区の司祭を務める牧師だった。キリスト教と身近な環境で育った彼女とは、日雇い労働者への炊き出し、偏見や差別に苦しむ人々への支援を通じて会話をするようになった。
 その後、片岡さんは大学を卒業して本格的に美術の世界で活動し、私も神学の道に進んだこともあって交流は途絶えていた。片岡さんがキュレーター(学芸員)として海外で活躍する姿を知ったときなどは、うれしい気持ちになった。
 再会のきっかけは2015年、共通の恩師である野村潔司祭の葬送式でのこと。「野村先生は常に社会的に弱い立場にある人々に手を差しのべ一緒に行動した」という私の説教を聞き、深く心に響いたとメールを寄せてくれた。教会の果たす役割に悩んできた私が歩むべき道を確かめることができた言葉でもあった。
 縁あって今夏の森美術館での企画展で立教大生や教員が協力している。いまも人へのやさしいまなざしを忘れない片岡さんとの対話を大事にしていきたい。

(にしはら・れんた=立教大学総長)