2017年、教区宣教局の教育部・礼拝部の共同作業によって翻訳されたイングランド聖公会・教会成長研究報告書2011〜2013(以下、報告書)について紹介したいと思います。その題は「逸話から証拠へ」(From Anecdote To Evidence)で、一般的にキリスト教会が衰退している西欧でも、成長している教会があるという事例を通して一緒に考えるために良い資料です。「成長」という言葉が使われているということは、現在は衰退の程度が激しいために「成長」が求められているという意味でもあります。
教会成長の意味は、大きく数値的な成長と質的な成長に分けられます。西欧が帝国主義植民地政策を広げていた時代から現代に至るまで、長い間教会はマタイ28章の宣教命令を用いて数値的成長を最優先の価値として考えてきました。数値の増加ということは勿論、教会運営に直接関係するところであるために、端的には問いにくいことでもありますが、数値的成長と共に、今は質的な成長(輝かしい生き方)がキーワードとしてもっと大事に取り上げられ、内的成長・霊的成長・社会的成長の部分が重んじられています。
特に英国に於いてこの報告書は、今は、伝統的な教会から離脱していく現代人、若い世代の人たちと多文化住民たちに教会が合わせていくべき時代であると語っています。これからさらに急変していく時代を迎えて、そういう時こそ教会は敷居を低くして、「いらっしゃい」と言いながら待つ宣教ではなく、外に出て世の中の声を聞かなければなりません。時代の流れの中で、大きな変化への挑戦もなく、今までそのように待ってきた西欧の教会が、その危機の中でどう対処して来たかを覗き見ることが出来る報告書でもあります。
勿論、このようにすればわたしたち日本の教会も成長するという方法を提案している文書ではありません。どうやってキリスト教を伝えるかではなく、どうやって神様の御国の価値を伝えるかという観点から読んで頂きたいと思います。
聖書の「善きサマリア人」の物語を見ると、当時のユダヤ人の考えにはサマリア人は隣人の範囲に入っていませんでした(絶対破れない思考)。しかし、「誰が私たちの隣人なのか」という問いと答えを重ねながら、今のこの時代に於いて、私たちの新しい隣人を探し出すことが大切です(絶対破れない思考は無いという思考)。
現代の教会は、新しい隣人を積極的に探す働きを通して結果的に今までの伝統的な信仰の教会も共に成長することが出来ると思います。勿論、英国とキリスト教文化が主流ではない日本の教会の間には一定の距離がありますが、宣教的な状況には似ている点が多くあります。若い世代の移動によって既存の地域共同体が崩れつつあり、高齢化現象がより大きく浮き彫りにされていて、教会自体が若い層からの呼びかけの力を失っていく現象がその共通点だと言えます。
教会のこれからの宣教の対象は、現在、教会に出席している信徒のみではなく、教会が属している生活エリア全体がその対象であるという共通認識を信徒全体が共に持つことが大事です。そして信徒同士のみが宗教的安静を得ることではなく、社会を構成する皆が輝かしく豊かに生きるところ(神様の御国を味わうことが出来るようにするところ)に教会の目的があると思います。そういう意味からでも、また茶話の内容に用いて頂くためにも是非読んで頂きたいと思います。
司祭 イグナシオ 丁 胤植
(三条聖母マリア教会・長岡聖ルカ教会牧師)