性別の問い合わせは人権侵害です

 今年(2021年)4月18日、厚生労働省が履歴書の性別欄に男女の選択肢を設けないこと、またその記載を任意とする「様式例」を発表しました。
 これは性別などによる就職差別につながっていて、以前から問題視されていたことですが、やっと任意の記入であるというレベルにたどり着いたことの現れです。
 世界的には性別はもちろん、民族や年齢、容姿等での差別を防止するために、問い合わせること自体が人権侵害であり、違法行為であることが一般的な認識です。
 任意であると断れば性別欄を残しても問題がないというのは、今年3月に発表された「The Global Gender Gap Report 2021」でも、男女格差を測るジェンダーギャップ指数が、先進国中最低レベルの120位であった、いかにも日本らしい認識です。しかし、問い合わせをすること自体が人権侵害ですから、性別欄自体を無くすべきであったことはいうまでもありません。任意であると断りがあっても、性別欄自体が残っていては差別問題は解決しないことは明らかです。
 すでに従来の性別欄に「男・女」と書かれていて、いずれかに丸をする形の「JIS規格の様式例」は、2020年7月に削除されています。このように「男・女」の形での性別の問い合わせ自体が問題であるという認識は、少しずつですが拡がってきているのですが、問い合わせ自体が問題であるという認識を一般化させるためにも、今回の「様式例」で性別欄自体を無くすべきでした。残された「任意の性別欄」が引き続き、人権侵害を正当化するために使われないことを祈るばかりです。
 このように日本では、「差別しているという認識がなければ、差別ではない」というのが、一般的な認識なのかも知れません。しかし、そのような思いにわたしたちの人権意識の低さがよく現れています。
 以前から、聖公会の様々な申請書のフォームに、性別欄が設けられており、しかも「男・女」という性別二分法に基づいた問い合わせが圧倒的に多いことが、包括的な教会形成にそぐわないことを指摘して、選別欄について考えましょうと呼びかけてきました。しかし、統計報告でも男女別の記載などが無くなり、性別を問い合わせる必要自体が無くなっているにもかかわらず、いまだに礼拝出席簿は、男女別であったり、新しく来会された方への問い合わせフォームにまで性別欄があり、「男・女」いずれかにチェックをするような状態が一般的であることが、わたしたちの教会が「開かれた教会」でないことをよく表しています。
 何らかの行事の申請書のフォームで、性別を問い合わせるのは、宿泊を伴う場合の部屋割りや何らかの保険をかけるためのものでしょう。日本では、生命保険、疾病保険などの保険契約では、保険料や保障が女性と男性で異なっているのがいまだ現状ですが、レクリエーション保険などでは、性別の問い合わせは不要になっています。
 誰もが安心して居ることの出来る、開かれた、包括的な教会を目指す第一歩として、もうそろそろ性別の問い合わせをやめることを検討しては如何でしょうか?


司祭 アンブロージア 後藤香織

(名古屋聖マルコ教会・愛知聖ルカ教会 牧師)